AI生成物を編集・加工する際の著作権リスクと対策
AIツールを用いて生成されたコンテンツを、そのまま利用するだけでなく、自身の創作意図に基づいて編集・加工することは、多くのフリーランスやクリエイターが行う一般的なプロセスとなっています。しかし、この編集・加工の過程には、著作権に関連するいくつかの潜在的なリスクが伴います。合法かつ倫理的にAI生成物を活用し、自身の作品として公開・提供するためには、これらのリスクを正確に理解し、適切な対策を講じる必要があります。
AI生成物における著作権の現状
AI生成物の著作権については、各国の法制度や判例によって解釈が異なり、いまだ発展途上の分野と言えます。特に日本の現行法においては、著作権は「思想又は感情を創作的に表現したもの」に発生するとされており、原則として「人間の創作的寄与」が必要と考えられています。
したがって、単にAIツールに指示（プロンプト）を与えて生成されたコンテンツが、直ちに著作権法上の「著作物」として保護される可能性は低いと解釈される場合が多くあります。これは、創作性の源泉がAIにあると判断されうるためです。
しかし、この解釈は今後の技術や法改正によって変わる可能性があり、また、AIツールやその生成物の利用規約によっても取り扱いが異なるため、注意が必要です。
AI生成物を編集・加工した場合の著作権
AI生成物を基に、人間が編集・加工を加えたコンテンツの著作権は、その加工の度合いによって判断が分かれる可能性があります。
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加工部分に著作権が発生する場合: 元のAI生成物に対して、人間が独自の思想や感情を創作的に表現するような、実質的な加筆、修正、変更を加えた場合、その加工された部分に著作権が発生する可能性があります。これは、人間の創作的寄与が認められるためです。
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全体として著作権が発生する場合（派生著作物、共同著作物）: 元のAI生成物を「原著作物」とし、それに翻案（新たな著作物を創作すること）と認められるような加工を加えた場合、全体として「派生著作物」として著作権が発生する可能性があります。ただし、AI生成物自体に著作権が発生していないと解釈される場合、これを「原著作物」と見なせるかという議論も生じ得ます。 また、AIツールを「道具」として使い、人間が主体となって創作を行い、AI生成プロセスがその創作活動の一部と見なされるような関与の仕方であれば、全体が人間の著作物と判断される可能性もゼロではありませんが、これも個別の事例や関与の度合いによります。
編集・加工に伴う具体的なリスク
AI生成物の編集・加工には、以下のような具体的なリスクが考えられます。
- 元のAI生成物の著作権リスクの承継:
- AIツールが学習に利用したデータに著作権侵害が含まれていた場合や、生成されたコンテンツが既存の著作物に偶然または意図せず類似してしまった場合、そのAI生成物自体が著作権侵害の疑いを帯びる可能性があります。
- このようなAI生成物を基に編集・加工を行った場合、加工後のコンテンツも、元のAI生成物が抱えていた著作権侵害のリスクを承継する可能性があります。元の問題点が解消されないまま、あるいはさらに拡大してしまうリスクも考えられます。
- 加工部分の創作性判断:
- 編集・加工を加えた部分が、著作権法上の「創作的寄与」と認められるほど十分なものであるかの判断が難しい場合があります。単なる誤字脱字の修正や、体裁を整える程度の軽微な変更では、加工部分に著作権は発生しない可能性が高いです。
- 十分な創作性が認められない場合、加工後のコンテンツ全体としても、人間の著作物として十分に保護されない可能性があります。
- クライアントへの説明責任と透明性:
- クライアントに対して、コンテンツ制作においてAIをどのように利用したか、また人間の創作的寄与がどの程度含まれているのかを明確に説明する責任が生じる場合があります。
- 編集・加工の度合いやプロセスが曖昧だと、クライアントとの信頼関係に影響したり、成果物の著作権帰属や利用許諾範囲について誤解が生じたりするリスクがあります。
リスクを回避・軽減するための対策
AI生成物を編集・加工して安全に活用するために、以下の対策を講じることが推奨されます。
- 利用するAIツールの利用規約を徹底的に確認する:
- 生成物の著作権帰属、商用利用の可否、加工・改変に関するルールが最も重要です。自身が行いたい編集・加工や利用方法が規約で認められているかを確認してください。特に、有料プランと無料プランで利用条件が異なる場合があるため注意が必要です。
- 「人間の創作性」を意識した編集・加工を行う:
- 単なる微調整ではなく、構成の抜本的な変更、独自のイラストやデザイン要素の追加、テキストの大幅な書き換え・加筆、独自の視点や解釈の反映など、明確な意図と創造性をもって加工を加えてください。これにより、加工部分または加工後のコンテンツ全体が人間の著作物と認められる可能性を高めます。
- 元のAI生成物と既存コンテンツとの類似性を徹底的にチェックする:
- AI生成物が納品物として利用されるレベルであるかに関わらず、編集・加工前に元のAI生成物が既存の著作物（画像、文章など）に酷似していないか、ツールや目視で可能な限り確認してください。加工後も最終成果物について類似性チェックを行うことが望ましいです。
- 編集・加工のプロセスを記録する:
- どこまでがAIによる生成で、どこから人間による編集・加工なのか、その過程でどのような変更を加えたのかを記録しておくことは、後々のトラブル発生時に自身の創作的寄与を証明する上で有効です。クライアントへの説明責任を果たす上でも役立ちます。
- クライアントとAIの利用について事前に合意形成を行う:
- プロジェクト開始前に、AIツールを使用する可能性、使用する場合の範囲、成果物の著作権帰属、AI生成物の加工の度合い、そしてそれらに伴うリスクについて、クライアントと十分に話し合い、合意を得ておくことが重要です。契約書や仕様書に明記することも検討してください。
- 不明な点は専門家に相談する:
- AI生成物の著作権に関する法的な解釈や、自身の行っている編集・加工が著作権法上どのように評価されるかについて不安がある場合は、著作権問題に詳しい弁護士や専門家に相談することを検討してください。
まとめ
AI生成物を編集・加工して活用することは、制作効率を高め、新たな表現を生み出す可能性を秘めていますが、著作権上のリスクを無視することはできません。特に、AI生成物の著作権の現状、加工の度合いによる判断の違い、そして元のAI生成物が抱えるリスクを理解することが出発点となります。
信頼できるAIツールの選定、利用規約の遵守、人間の創作的寄与を明確にする加工、類似性のチェック、作業プロセスの記録、そしてクライアントとの事前の情報共有といった実践的な対策を講じることで、リスクを最小限に抑え、合法かつ倫理的にAIを創作活動に組み込むことが可能になります。AIとの共創時代において、これらの知識と対策はプロフェッショナルにとって不可欠なものとなるでしょう。